愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
「いや、太一郎の面倒は今に始まったことじゃありません。あなたが気にされる必要はないですよ」
「は、はあ……」
卓巳の言うことは間違ってはいない。だが、もっと言い様があるだろう、と太一郎は独りごちる。
「だが、去年までに比べれば面倒の質が違う。今のコイツなら、手を貸してやっても無駄じゃない。そうは思わないか? 合崎くん」
不意に、かつての主人に名前を呼ばれ、悠里はビクッとした。
太一郎憎しとはいえ、週刊誌に藤原家の内情を暴露したのだ。まともには顔を合わせづらいだろう。
「泉沢清二に金で雇われたのは数日前らしいな。だが、沈みかけた船に乗るのは利口じゃない。いくら金に困ったのだとしても」
「え……なんで金に困るんだ? 合崎は両親が戻って来たからって、メイドを辞めて実家に帰ったんだろ?」
太一郎は卓巳の台詞に疑問の声を上げたのだった。
悠里が高校を出てすぐに藤原邸に勤めたのは、両親が借金をしたまま蒸発したからだ、と聞いている。無論、悠里に支払いの義務はない。だが、性質(たち)の悪い金融会社から借りていたため、ひとり娘である悠里の周囲にも、人相の悪い男が付き纏っていた。
そして、その借金を清算できたのは太一郎の母・尚子からもらった慰謝料のおかげである。
悠里にすれば、不本意なことだっただろう。
ともかく、それで彼女も彼女の両親にも、執拗な取立てはなくなった。今年の初め、姿を消していた両親から連絡があり、悠里は両親の家に戻ったという話だ。
だが卓巳の調査によると――。
悠里の両親は娘の身に起こったことより、彼らにとって都合のいい部分のみを受け入れた。
両親の借金は悠里の知るだけではなかったのだ。さらなる金額を藤原家で都合してもらうために、彼らは娘に連絡を取ったのである。
しかし、悠里にそんなことがわかるはずがない。彼女はメイドを辞めて自宅に戻るが……。
「は、はあ……」
卓巳の言うことは間違ってはいない。だが、もっと言い様があるだろう、と太一郎は独りごちる。
「だが、去年までに比べれば面倒の質が違う。今のコイツなら、手を貸してやっても無駄じゃない。そうは思わないか? 合崎くん」
不意に、かつての主人に名前を呼ばれ、悠里はビクッとした。
太一郎憎しとはいえ、週刊誌に藤原家の内情を暴露したのだ。まともには顔を合わせづらいだろう。
「泉沢清二に金で雇われたのは数日前らしいな。だが、沈みかけた船に乗るのは利口じゃない。いくら金に困ったのだとしても」
「え……なんで金に困るんだ? 合崎は両親が戻って来たからって、メイドを辞めて実家に帰ったんだろ?」
太一郎は卓巳の台詞に疑問の声を上げたのだった。
悠里が高校を出てすぐに藤原邸に勤めたのは、両親が借金をしたまま蒸発したからだ、と聞いている。無論、悠里に支払いの義務はない。だが、性質(たち)の悪い金融会社から借りていたため、ひとり娘である悠里の周囲にも、人相の悪い男が付き纏っていた。
そして、その借金を清算できたのは太一郎の母・尚子からもらった慰謝料のおかげである。
悠里にすれば、不本意なことだっただろう。
ともかく、それで彼女も彼女の両親にも、執拗な取立てはなくなった。今年の初め、姿を消していた両親から連絡があり、悠里は両親の家に戻ったという話だ。
だが卓巳の調査によると――。
悠里の両親は娘の身に起こったことより、彼らにとって都合のいい部分のみを受け入れた。
両親の借金は悠里の知るだけではなかったのだ。さらなる金額を藤原家で都合してもらうために、彼らは娘に連絡を取ったのである。
しかし、悠里にそんなことがわかるはずがない。彼女はメイドを辞めて自宅に戻るが……。