愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
「三流紙から現金を見せられ、目が眩んだらしいな。だがもう、どこもそのネタを買うことはない。先に私のもとに来るべきだったな。少なくとも、もう少し高値はついただろう。君まで逮捕させるつもりはない。さっさと着替えてどこにでも行け」


真っ青になる悠里を卓巳は簡単に切り捨てた。


太一郎も何度か口を開きかけ……だが、言葉で卓巳に敵うはずがないと諦める。

そんな太一郎の横から奈那子が声を上げた。


「お待ちくださいませ、藤原様。わたしは、この合崎さんに助けていただきました。清二さんに殴られそうになったとき、庇って下さったのです。ここに連れて来られたときも、とても親切にしていただきました。もし可能でしたら、彼女の生活が立ち行くようにしてあげていただけませんか? お願いいたします」

「人の心配より、自分の心配が先じゃないのか? 私の勘違いでなければ、君たちの生活も立ち行かない状態だと聞いているが」


卓巳の返事に奈那子も言葉を失う。

確かに、人の助けを借りて生活している状況だ。万里子の実家・千早社長にも借金がある。奈那子を取り戻すために卓巳の力も借り……この先も、桐生との決着には藤原の力が必須だろう。


「卓巳の言うとおりだ。でも……俺のお袋が金を払ったことで、合崎の両親が味をしめたってんなら、無関係じゃないだろ? なんとか、ならねぇか? もう一回、藤原邸で雇うとか……」

「大きなお世話よ! 私がなんでお邸を辞めたかわかる? 万里子様の影響で、土下座ひとつで皆があんたを許そうとか言い出したからよ。何が結婚よ……あんたが父親ですって? 幸せになんてできるわけがないじゃないっ!」


太一郎の同情だけは、悠里には受け容れがたいことだったらしい。

興奮を露わに言い返すと、悠里は奈那子に向き直った。


「あの泉沢って男も相当のロクデナシだと思うけど、コイツだって大差ないわ! あなたには悪いけど……お幸せに、とは言えない。太一郎なんて地獄に堕ちればいい、今でもそう思ってるわ!」 


悠里は奈那子を庇ってくれたという。おそらくは心優しい女性なのだろう。だが、彼女の怒りは本物だ。呪いの言葉を吐かれるほど、怨まれているのだと思うと……。

太一郎は固く目を閉じ、唇を噛み締めたのだった。


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