愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
太一郎が自責の念に駆られていると、そこにタイミングよく制服警官が飛び込んできた。

だが警官が迎えに来たのは、太一郎ではなく悠里。

清二は奈那子を連れ出した罪を、太一郎に怨みを持つ悠里に擦り付けたようだ。彼女からも話を聞きたいと、ふたりの警官は言う。


「あの……合崎さんはわたしを助けてくださいました。ですから、この方は……」


奈那子は悠里が逮捕されると思ったのか、青褪めながら説明を始める。


「藤原奈那子さんですね。あなたにも事情を伺わないといけないんですが、その」


警官は卓巳をチラチラ見ながら、言葉を濁した。ここに来るまでの経緯で、いかに卓巳が警官を嚇しつけたかわかろうものだ。


「見たらわかるだろう? 医者が先だ」


わずかふた言で警官を一蹴すると、卓巳は太一郎に向かって言った。


「下のリムジンで彼女を藤原の邸まで連れて行け」

「いや、俺たちは小平の家に……」

「桐生との決着がついてないんだぞ。彼女を連れ戻され、婚姻無効の申し立てでもされてみろ。藤原なら警備は万全だ。それに、邸内には医者も看護師もいる。それだけじゃない……彼女を一刻も早く横にさせてやれ」

「わ、わりぃ」


卓巳に言われ、太一郎は初めて奈那子の疲れた表情に気づいたのだ。

自分の鈍さに嫌気が差しながら、太一郎は卓巳に謝った。

だが「謝る相手が違う」と卓巳は小さく耳打ちし、太一郎と奈那子を残して、先に部屋を出たのである。


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