愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
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マンションのエレベーターが一階に着き、卓巳と悠里、そしてふたりの警官が降りた。
外はかなり大きな事になっている。それもそのはず、マンションの出入り口付近にはパトカーが四台も停まり、警官の数も二桁に届く。付近住民や通行人は、何ごとかと覗き込んでいた。
「合崎……太一郎を許してやれとは言わない。だが、ほどほどにしておけ」
パトカーに乗せられた悠里に、卓巳は声をかけた。
彼女が邸に勤め始めたのは十八歳……今の佐伯茜と同じ歳のころだ。
悠里の父親は小さな町工場を経営していた。会社が傾く前は、悠里も社長のひとり娘として大切に育てられたはずである。年齢より幼い感じの、礼儀正しい少女だった。
卓巳が彼女を最初に見かけたとき、太一郎が馬鹿をやるであろうと薄々察した。
だが、大会社のご令嬢と問題を起こされるより、金で片が付く娘のほうがありがたい、とすら考えたのは事実だ。
当時の卓巳にとって、女性問題は地雷であった。踏み込むことはおろか、言葉にもできない。太一郎がどんな罪を重ねようと、卓巳は顔を背けるだけだった。
そんな自分がどれほど無様であったか、誰にも言われない分だけ卓巳自身がよくわかっている。
悠里は怯えた瞳で卓巳を見上げ、口を開いた。
「私、逮捕されるの? 週刊誌には本当にことを話しただけよ! それでなんで捕まらなきゃならないのよっ」
「泉沢に加担したことはどうだ? 奈那子さんを連れ出すのに、奴は太一郎の醜聞を利用した。君はその場にいて、それでも自分が正当であったと言えるか?」
「それはっ! それは……」
クッと唇を噛み締め、悠里は再び卓巳に視線をやった。今度は怒りの炎が彼女の瞳に揺らめいている。
マンションのエレベーターが一階に着き、卓巳と悠里、そしてふたりの警官が降りた。
外はかなり大きな事になっている。それもそのはず、マンションの出入り口付近にはパトカーが四台も停まり、警官の数も二桁に届く。付近住民や通行人は、何ごとかと覗き込んでいた。
「合崎……太一郎を許してやれとは言わない。だが、ほどほどにしておけ」
パトカーに乗せられた悠里に、卓巳は声をかけた。
彼女が邸に勤め始めたのは十八歳……今の佐伯茜と同じ歳のころだ。
悠里の父親は小さな町工場を経営していた。会社が傾く前は、悠里も社長のひとり娘として大切に育てられたはずである。年齢より幼い感じの、礼儀正しい少女だった。
卓巳が彼女を最初に見かけたとき、太一郎が馬鹿をやるであろうと薄々察した。
だが、大会社のご令嬢と問題を起こされるより、金で片が付く娘のほうがありがたい、とすら考えたのは事実だ。
当時の卓巳にとって、女性問題は地雷であった。踏み込むことはおろか、言葉にもできない。太一郎がどんな罪を重ねようと、卓巳は顔を背けるだけだった。
そんな自分がどれほど無様であったか、誰にも言われない分だけ卓巳自身がよくわかっている。
悠里は怯えた瞳で卓巳を見上げ、口を開いた。
「私、逮捕されるの? 週刊誌には本当にことを話しただけよ! それでなんで捕まらなきゃならないのよっ」
「泉沢に加担したことはどうだ? 奈那子さんを連れ出すのに、奴は太一郎の醜聞を利用した。君はその場にいて、それでも自分が正当であったと言えるか?」
「それはっ! それは……」
クッと唇を噛み締め、悠里は再び卓巳に視線をやった。今度は怒りの炎が彼女の瞳に揺らめいている。