愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
「永瀬を解雇した理由は、太一郎と和解した皐月様を彼女が恐喝したからだ。奴の過去をマスコミに売ると脅して……まさかとは思うが、君が週刊誌に持ち込んだのはあの女の提案か!?」


首を縦に振る悠里に、卓巳は開いた口が塞がらない思いだった。

おそらくあずさのことだ、仲介料の名目で金をせしめたに決まっている。

引っ張り出して思い知らせてやりたいところだ。しかし宗の話では、地方で介護の職につき、金持ちの老人を誑し込むのに必死だという。わざわざ藪をつつき、毒蛇を呼び戻すような真似も愚かだ。


「とにかく、君が藤原に戻りたいなら手配しよう。だが、太一郎夫婦と顔を合わすのが嫌なら、別の仕事を紹介する。どうだ?」

「でも……両親が」

「人間という奴は楽な方に流れたくなるものだ。だが、君の両親は懸命に働くことを知っている。我が子を“打ち出の小槌”だと勘違いする前に、離れたほうがお互いのためだろう」


卓巳の母は、藤原から金を引き出すためだけに彼を産んだ。金にもならない愛欲の結晶は、人の姿を成す前に、闇に葬り去られたのである。卓巳がこの世に生きているのは、まさに奇跡としか言えない。


後日、悠里は卓巳の紹介により、住み込みの家政婦をすることになる。老夫婦の住まいで、彼女を傷つける人間はいないと卓巳が受け合った。

悠里は、


「太一郎のことは許せないけど、地獄に堕ちろって言ったのは取り消します。奈那子さんは悪い人じゃないし、子供に罪はないんだし……。でも、ちょっと万里子様に似てますよね?」


少しだけ吹っ切れたような笑顔を見せる。


卓巳は複雑な想いを抱きつつ……最後の部分を除き、悠里の言葉を太一郎に伝えたのだった。


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