愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
(33)あいしてる
「奈那子、大丈夫か? 具合が悪いなら横になってたほうがいい」

「いえ。あまり眠ってなくて。それだけですから」


リムジンの中で、太一郎は隣に座る奈那子に話しかけた。

卓巳は宗と合流すると言って、あの場に残った。広い車内に運転手の他はふたりきりである。

このメルセデスのリムジンは卓巳専用の社用車だ。卓巳はドイツ車が好きなのか、私用で乗り回しているのもBMWだった。

太一郎は十八歳で免許を取ってすぐ、ポルシェを購入した。だが、一ヶ月後には事故を起こし廃車。以来、運転はほとんどしなくなる。

だが、今年に入って名村産業で働き始め、仕事でどうしても汲み取り用の車両を運転しなければならなくなった。今ではだいぶ、運転にも慣れてきたように思う。


「ごめんな。俺、気が利かなくて」


卓巳に言われたことが気になり、太一郎は後部座席に身体を小さくして座っていた。

そんな太一郎に奈那子は微笑み、


「謝らなければならないのは、わたしの方です。勝手に判断して、泉沢さんについて行ってしまって」


そして小さな声で、清二に言われた『交際中の彼女と別れてまで、君に尽くそうとしてる』という言葉を口にした。奈那子はそれが事実なら、どんなことをしても太一郎を自由にしなくては、と思ったという。


「プロポーズまでしたのに、信じてもらえなかったわけか?」

「それは……再会してから、太一郎さんは一度もおっしゃってくれないから」

「何を?」

「……愛してる……って」


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