愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
奈那子から抱きついてきたのは初めてだ。ずっと我慢させていたのだと思うと、太一郎は申し訳なさで一杯になる。
女の扱いには慣れているつもりだった。少なくとも、卓巳よりはましだと内心思っていたのだ。だが、どうやら五十歩百歩らしい。
「あなたが好きです。心から、愛しています」
「お……おう」
他に気の利いた返事はできないのか、と自分で自分の尻を蹴りたい気分だ。
そして太一郎が視線を下ろすと、同じタイミングで奈那子が見上げていた。目の前に女性の……最愛の妻の唇があれば、やるべきことはひとつだろう。
だが、ふたりの唇が重なる瞬間、奈那子が太一郎の腕を強く掴み、押し退ける仕草をした。それはどこか一年前のふたりの関係を思わせる、微妙な行動で……。
「いや……待って」
奈那子の口元から微かに零れたその言葉は、かなり強く太一郎の欲求をくすぐる。髪から仄かに漂う奈那子の香りが、ひとりで慰めた夜を思い出す。
妊婦の奈那子に無茶は言えない……言えないが、少しくらい、という思いが頭をもたげてくる。
逃げる仕草にそそられる辺りが、自分自身に不安を覚えないでもない。
だが、それ以上に……。
「奈那子、お前が欲しい」
太一郎は、自分で思うより切羽詰っているようだ。声にすると同時に奈那子の返事を待たず、その唇を捉えた。
情欲を煽るようなキスに、太一郎が理性を飛ばしかけたそのとき。
――コンコン、コンコン。
背後で何かが叩かれる音がして、太一郎は渋々振り返った……。
女の扱いには慣れているつもりだった。少なくとも、卓巳よりはましだと内心思っていたのだ。だが、どうやら五十歩百歩らしい。
「あなたが好きです。心から、愛しています」
「お……おう」
他に気の利いた返事はできないのか、と自分で自分の尻を蹴りたい気分だ。
そして太一郎が視線を下ろすと、同じタイミングで奈那子が見上げていた。目の前に女性の……最愛の妻の唇があれば、やるべきことはひとつだろう。
だが、ふたりの唇が重なる瞬間、奈那子が太一郎の腕を強く掴み、押し退ける仕草をした。それはどこか一年前のふたりの関係を思わせる、微妙な行動で……。
「いや……待って」
奈那子の口元から微かに零れたその言葉は、かなり強く太一郎の欲求をくすぐる。髪から仄かに漂う奈那子の香りが、ひとりで慰めた夜を思い出す。
妊婦の奈那子に無茶は言えない……言えないが、少しくらい、という思いが頭をもたげてくる。
逃げる仕草にそそられる辺りが、自分自身に不安を覚えないでもない。
だが、それ以上に……。
「奈那子、お前が欲しい」
太一郎は、自分で思うより切羽詰っているようだ。声にすると同時に奈那子の返事を待たず、その唇を捉えた。
情欲を煽るようなキスに、太一郎が理性を飛ばしかけたそのとき。
――コンコン、コンコン。
背後で何かが叩かれる音がして、太一郎は渋々振り返った……。