愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
(34)ふたりの女神
甘い香りに奈那子は包まれていた。
随分久しぶりに、広いベッドとふかふかの布団で眠った気がする。
もちろん、今の生活に不満はない。人の優しさを知り、太一郎もいて心は満たされている。
だが、代議士令嬢として育った奈那子だ。気づかぬうちに生活の苦労はストレスとなり、彼女の身体は疲労困憊であった。しかも、妊娠による負担も大きい。
ドクターからお腹の赤ん坊に問題はないと言われ、奈那子の緊張は一気に緩んだ。少し横になるつもりが……あまりの寝心地のよさに、グッスリと眠り込んでしまったらしい。カーテンの隙間から見える外も真っ暗であった。
奈那子は常夜灯だけの薄暗い室内を見回す。
すると、リビングのテーブル付近に動く影を見つけた。
「あの……太一郎さん?」
奈那子が声をかけると、その人影は身体を起こして振り返る。
「あ、ごめんなさい。起こしてしまって。わたしは藤原卓巳の家内で万里子と言います」
女性の声を聞いた瞬間、奈那子の胸にチクリと痛みが走った。
その名前には聞き覚えがある。
悠里に言われた、『あなたって万里子様に似てるわ。だからあの男も興味が湧いたのかもね』その中に出て来た名前だ。太一郎の口から、聞いた記憶はない。
だが……。
随分久しぶりに、広いベッドとふかふかの布団で眠った気がする。
もちろん、今の生活に不満はない。人の優しさを知り、太一郎もいて心は満たされている。
だが、代議士令嬢として育った奈那子だ。気づかぬうちに生活の苦労はストレスとなり、彼女の身体は疲労困憊であった。しかも、妊娠による負担も大きい。
ドクターからお腹の赤ん坊に問題はないと言われ、奈那子の緊張は一気に緩んだ。少し横になるつもりが……あまりの寝心地のよさに、グッスリと眠り込んでしまったらしい。カーテンの隙間から見える外も真っ暗であった。
奈那子は常夜灯だけの薄暗い室内を見回す。
すると、リビングのテーブル付近に動く影を見つけた。
「あの……太一郎さん?」
奈那子が声をかけると、その人影は身体を起こして振り返る。
「あ、ごめんなさい。起こしてしまって。わたしは藤原卓巳の家内で万里子と言います」
女性の声を聞いた瞬間、奈那子の胸にチクリと痛みが走った。
その名前には聞き覚えがある。
悠里に言われた、『あなたって万里子様に似てるわ。だからあの男も興味が湧いたのかもね』その中に出て来た名前だ。太一郎の口から、聞いた記憶はない。
だが……。