愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
「起きていらしたらお腹が空いたんじゃないかと思って……ココアとホットケーキを焼いてきたんです。具合はいかがですか? 電気、点けましょうか?」
「あ、はい。お願いいたします」
奈那子がそう答えた直後、天井の灯りが数回瞬き“万里子様”の上に降り注いだ。
ソファの近く、電灯用のリモコンを手に立つ女性がいた。落ちついた笑みを奈那子に向け、楚々として佇む。漆黒より茶色に近い豊かな髪は、蛍光灯の灯りで一層艶めいて見える。
彼女の姿はまるで、砂漠のオアシスのようだ。そこでは誰も争わず、傷ついた身体を癒してくれる。
万里子は不思議なエネルギーに満ち溢れた女性だった。
そして奈那子の視線は、万里子の大きなお腹にも注がれる。
「予定日は十月なの。今九ヶ月目で、もう大変。奈那子さんは?」
奈那子の視線に気づいたらしい。万里子はお腹を下から支える仕草をして、「ヨイショ」と付け足した。
「わたしは十一月半ばと言われています。八ヶ月です」
九ヶ月目が一番大きく見える時期だという。臨月に入ると子供の位置が下がり、頭の向きも固定されるため、膨らみも下に移動する。赤ん坊にとってもお腹の中が窮屈になるのか、あまり動けなくなるらしい。
出産に関することは、最初は考えたくなかった。
太一郎の子供を中絶した罪悪感から、次は産もうと心に決めたものの……子供の父親は清二である。それを考えるだけで奈那子は気が重く、逃げ出しそうになる自分を懸命に励ました。
だが今は……夢が叶って、太一郎の妻となった。
この子は太一郎の実子として生まれてくる。それを考えるだけで、奈那子の心は浮き立った。
「あ、はい。お願いいたします」
奈那子がそう答えた直後、天井の灯りが数回瞬き“万里子様”の上に降り注いだ。
ソファの近く、電灯用のリモコンを手に立つ女性がいた。落ちついた笑みを奈那子に向け、楚々として佇む。漆黒より茶色に近い豊かな髪は、蛍光灯の灯りで一層艶めいて見える。
彼女の姿はまるで、砂漠のオアシスのようだ。そこでは誰も争わず、傷ついた身体を癒してくれる。
万里子は不思議なエネルギーに満ち溢れた女性だった。
そして奈那子の視線は、万里子の大きなお腹にも注がれる。
「予定日は十月なの。今九ヶ月目で、もう大変。奈那子さんは?」
奈那子の視線に気づいたらしい。万里子はお腹を下から支える仕草をして、「ヨイショ」と付け足した。
「わたしは十一月半ばと言われています。八ヶ月です」
九ヶ月目が一番大きく見える時期だという。臨月に入ると子供の位置が下がり、頭の向きも固定されるため、膨らみも下に移動する。赤ん坊にとってもお腹の中が窮屈になるのか、あまり動けなくなるらしい。
出産に関することは、最初は考えたくなかった。
太一郎の子供を中絶した罪悪感から、次は産もうと心に決めたものの……子供の父親は清二である。それを考えるだけで奈那子は気が重く、逃げ出しそうになる自分を懸命に励ました。
だが今は……夢が叶って、太一郎の妻となった。
この子は太一郎の実子として生まれてくる。それを考えるだけで、奈那子の心は浮き立った。