愛を教えて ―輪廻― （第一章 奈那子編）

「合崎悠里さんに会ったんですってね」


万里子の言葉にうなずき、奈那子は質問で返した。


「はい。あの、こちらでメイドをされていらした方ですよね？」

「ええ。わたしが嫁ぐ前から、今年の一月までだけれど……」


奈那子は、万里子の困ったようなまなざしを見つけた。彼女が言葉を濁したのは、どうやら太一郎の過去に関係することらしい。

太一郎自身が言っていた。そして悠里も口にした、太一郎の犯した罪。


「太一郎さんが合崎さんを傷つけたことは聞きました。他にも……たくさんの方を傷つけてきた、と。でも、今のあの人は違うんです！　太一郎さんは、わたしも騙したっておっしゃいましたけど……。わたしには、騙された覚えはありません！　ですから……すみません。わたしが謝ります。だから」


必死になって太一郎を庇おうとする奈那子の目に、驚く万里子の顔が映った。

奈那子は、太一郎はこの女性も傷つけたのだ、と思ったのだ。だから従兄である卓巳も、太一郎にあれほど厳しいのだろう、と。


「違うの、奈那子さん。そうじゃないのよ。太一郎さんはわたしを傷つけてはいないし、今、この邸内には太一郎さんと――そういった関係になった女性はいないから、安心してね」
　

万里子はベッドに腰かけ、奈那子の手を握って言った。

その言葉に奈那子はホッと息を吐く。

覚悟はしていても、やはりそういった女性と顔を合わせるのは辛い。申し訳なさと同時に、嫉妬という黒い感情が奈那子の胸にも渦巻いてくる。


「卓巳さんがきついことを言ったんでしょう？　気にしないでね。冷たいのは言葉だけだから。本当は、太一郎さんのことが心配で仕方なかったはずなの。でも、わたしも秘書の宗さんも、太一郎さんの独立心を優先して黙っていたから……」