愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
奈那子はこのとき初めて、彼女が入院していた病院で太一郎と万里子が会ったことを聞いた。

そして太一郎が来月から勤める予定になっている千早物産が、万里子の実家であることも。

万里子はお祝いだと言って、奈那子にマタニティワンピースを持って来てくれたのだ。下着まで揃っているところを見ると、万里子の気遣いは一目瞭然である。

奈那子は恐縮して、


「すみません。何から何まで、お世話になってしまって」

「卓巳さんと太一郎さんは従兄弟同士だけれど、ふたりともひとりっ子でしょう? 実際には兄弟のようなものじゃないかしら。わたしもひとりっ子なの。だから、妹ができたみたいで嬉しくって!」


万里子の親しみ深い笑顔は、奈那子には馴染みのないものであった。


(合崎さんは似てるって言ったけど……この人はわたしとは全然違う)


万里子はきっと愛情豊かな家庭で育った女性だろう。国内最大と言われる藤原コンツェルンの次期総帥に見初められ、花嫁になった。

“聖マリアのシンデレラ”そんな文字が、昨年末の週刊誌を賑わせていたことを思い出す。 

自分に自信がなく、ぎこちない笑顔しか作れず、太一郎の優しさに縋ることしかできない。そんな奈那子に、万里子の微笑みは眩しく……ただ、うなずくだけだった。


このときの奈那子は何も知らず、そして気づけなかった。

万里子の笑顔が、たくさんの苦悩を乗り越えた証だということに。

そして太一郎にとって、奈那子の精一杯の笑顔が癒しとなり、彼が生まれ変わるための原動力であることにも……。 


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