愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
~*~*~*~*~
――今朝の奈那子は元気がなかった。
太一郎は奈那子のことを考え、ため息をついた。
邸宅に気後れしたのかと思ったが、彼女とて使用人のいるお屋敷で暮らしていた身だ。ボロアパートに比べれば、より馴染みやすいはずである。
「どうした? 今からビビってたんじゃ話にならんぞ」
リムジンの中で卓巳に話しかけられた。
今、太一郎は卓巳と一緒に藤原家のリムジンに乗っている。車が向かっているのは横浜。それも奈那子の両親が住む家ではなく、同じ山手にある奈那子の祖父の家――桐生老と呼ばれる桐生久義(きりゅうひさよし)の屋敷だ。
古い鉄製の門を運転手が下りて行き、手で押し開ける。
石畳の道を少し行くと、駐車スペースがあった。数台の、どれも運転手付きの車が停まっている。玄関前まで車で行くわけにはいかないようだ。
「ここで降りよう。竹川、駐車場に車を停めて待っていてくれ」
卓巳の指示に運転手の竹川は「承知いたしました」とうなずいた。
卓巳はとくに代わり映えのないスーツ姿である。
しかし太一郎は違った。彼が持っているスーツは、今年の正月に取締役会で着た一着のみだ。それを着て行こうとして卓巳に叱られたのである。
「誰に会いに行くと思ってるんだ? リクルートスーツなんぞ着込んだ小僧じゃ、門前払いを食うだけだ」
そして卓巳に連れて行かれたのが――。
――今朝の奈那子は元気がなかった。
太一郎は奈那子のことを考え、ため息をついた。
邸宅に気後れしたのかと思ったが、彼女とて使用人のいるお屋敷で暮らしていた身だ。ボロアパートに比べれば、より馴染みやすいはずである。
「どうした? 今からビビってたんじゃ話にならんぞ」
リムジンの中で卓巳に話しかけられた。
今、太一郎は卓巳と一緒に藤原家のリムジンに乗っている。車が向かっているのは横浜。それも奈那子の両親が住む家ではなく、同じ山手にある奈那子の祖父の家――桐生老と呼ばれる桐生久義(きりゅうひさよし)の屋敷だ。
古い鉄製の門を運転手が下りて行き、手で押し開ける。
石畳の道を少し行くと、駐車スペースがあった。数台の、どれも運転手付きの車が停まっている。玄関前まで車で行くわけにはいかないようだ。
「ここで降りよう。竹川、駐車場に車を停めて待っていてくれ」
卓巳の指示に運転手の竹川は「承知いたしました」とうなずいた。
卓巳はとくに代わり映えのないスーツ姿である。
しかし太一郎は違った。彼が持っているスーツは、今年の正月に取締役会で着た一着のみだ。それを着て行こうとして卓巳に叱られたのである。
「誰に会いに行くと思ってるんだ? リクルートスーツなんぞ着込んだ小僧じゃ、門前払いを食うだけだ」
そして卓巳に連れて行かれたのが――。