愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
(35)一番見込みのない孫
さすがにオーダーメードとはいかなかった。

だが用意されていたのは、これまで太一郎が袖を通したこともない……ジョルジオ・アルマーニの黒ラベル。

濃いグレーのスーツは黒ラベル独特の柔らかい生地だ。ボタン位置が高めで、脚が長く見えるデザインらしい。

パンツはノータック。シルクのシャツは淡いグレーで、ネクタイは濃いグレーと黒のストライプ。

短いなりに髪もセットされ、無精ひげの一本も見当たらない。


どこから見ても藤原グループの御曹子、藤原太一郎の姿であった。



御影石が敷き詰められた通路を、太一郎と卓巳は並んで歩く。

母屋の玄関が近づくごとに、太一郎は胃がキリキリ痛んだ。元々プレッシャーには強くない。特に格式ばった席は苦手だ。失敗を恐れるあまり、最初からぶち壊しにするという悪い癖もあった。

しだいに太一郎の歩幅は小さくなり、卓巳から置いて行かれそうになる。


「何をやってる?」


遅れ始めた太一郎を振り返り、卓巳は険しい声を出した。


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