愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
「誰のためにここまで来たのか、わかってるのか?」

「ああ……でも、俺の話なんか聞いてもらえるかどうか……」

「何を今さら。なら、帰るか? 私はそれでも構わないが」


構うのは太一郎のほうであろう。

放っておけば、太一郎と奈那子の行く先々で邪魔が入るのは目に見えている。

桐生老とて、さすがにこの卓巳と正面から事を構えるのは避けるかもしれない。

だが……。


「わかったよ。行くよ。行けばいいんだろう」

「当たり前だ……が、ちょっと待て、太一郎」


卓巳を追い抜きどんどん歩き始めたが、不意に呼び止められた。


「なんだよ」

「姿勢を正せ、そして、落ちつきなく周囲を見回すな。あと、話をするときは相手の目を見ろ」


卓巳は矢継ぎ早に注文をつける。

太一郎にはどれも難しいものだ。しかし、卓巳はさらに注文を追加した。


「桐生老は妖怪並の爺さんだ。目が合ったら食われるかもしれんぞ。だが、逸らしても終わりだ」

「……それは、励ましてるのか? 脅してるのか?」


太一郎の質問に卓巳はニヤリと笑った。


「両方だ。――骨は拾ってやる。しっかりやれ」


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