愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
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通されたのは広い和室だった。

太一郎には寺の本堂を想像させる。何十畳あるのか、数えるのが面倒になりそうな広さだ。卓巳に見習い、太一郎も畳の上に直接正座する。

窓を開け放っているせいか、真夏なのに比較的涼しい。だだっ広いせいもあるだろう。その分、真冬は寒いに違いない。

等々、太一郎は余計なことばかり考えていた。


スッと障子が開き、小柄な老人が姿を見せた。

奈那子の祖父と言われたらすぐにうなずけそうな、一見、どこにでもいる好々爺(こうこうや)だ。

しかも、薄緑のシャツにグレーのズボンを穿き、ズボンは膝まで捲り上げている。まるで、畑仕事でもしてきたかのような身なりであった。


「ご無沙汰しております。しかし……また庭仕事ですか? いっそ、第二の人生ということで、庭師にでもなられては?」


卓巳のいつもと変わらぬ口調に、太一郎は声もない。

確かに、藤原の先代社長、ふたりの祖父に比べたら威圧感はまるでなかった。卓巳が言った“妖怪並み”とはとても思えない。


「相変わらず口の減らん奴め。わしが庭師になったら、真っ先に藤原の木を丸坊主にしてやろう」

「せっかくですが、うちには腕のよい庭師がおります」

「ああ、例の落とし胤か。しかし高徳は、人を見る目がなかったな。一番見込みのない孫を後継ぎにしようとしておった。藤原のためには、さっさと死んで正解だ」


一瞬……ほんの一瞬だけ、桐生老の視線が太一郎に移った。

その一瞬、まるで祖父の前に立たされた気持ちになる。


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