愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
(36)駆け引き
「怒鳴らんでも、わしの耳は聞こえとる!」
一喝され、太一郎は条件反射のようにシュンとなった。
「まあ、その辺で。桐生先生もそろそろ先のことを考えて、功徳(くどく)を積まれたほうがよろしいのでは? 不品行の程度なら、私たちの祖父と大差ないと思われますが」
言いたい放題の卓巳に桐生老はフンと鼻を鳴らした。
「わしは百まで生きるつもりだ。あと、四半世紀はある。貴様の葬式にも出てやるからな」
「結構ですね。では先に逝って、あとからやって来た桐生先生を顎で使うことにしましょう」
卓巳の人を食った返答に、「ああ言えば、こう言う……」と桐生老はブツブツ口の中で呟いた。
「おい、デカイの。そんなに奈那子の夫になりたいのか?」
「なりたいんじゃねぇ。もうなってんだよ。往生際の悪い祖父さんだな」
桐生老は意地悪そうに顔を歪ませながら、
「奈那子と別れたら貴様が欲しいだけの金をやろう。但し、別れんと言うなら、奈那子には一円も残さんぞ。さあ、どうする?」
太一郎は一瞬、何を言われたのかわからなかった。
だが気づいたあとは、怒りより脱力感のほうが大きい。
「あのな祖父さん。金はない方が幸せになれるんだぜ。ペットボトルのお茶を一本おごってもらうだけで、ありがたいって思えるんだ。無駄なことに使うより、感謝されることに使えよ。仮にもあんたはさ、この国を動かしてきたひとりなんだろ?」
「……」
一喝され、太一郎は条件反射のようにシュンとなった。
「まあ、その辺で。桐生先生もそろそろ先のことを考えて、功徳(くどく)を積まれたほうがよろしいのでは? 不品行の程度なら、私たちの祖父と大差ないと思われますが」
言いたい放題の卓巳に桐生老はフンと鼻を鳴らした。
「わしは百まで生きるつもりだ。あと、四半世紀はある。貴様の葬式にも出てやるからな」
「結構ですね。では先に逝って、あとからやって来た桐生先生を顎で使うことにしましょう」
卓巳の人を食った返答に、「ああ言えば、こう言う……」と桐生老はブツブツ口の中で呟いた。
「おい、デカイの。そんなに奈那子の夫になりたいのか?」
「なりたいんじゃねぇ。もうなってんだよ。往生際の悪い祖父さんだな」
桐生老は意地悪そうに顔を歪ませながら、
「奈那子と別れたら貴様が欲しいだけの金をやろう。但し、別れんと言うなら、奈那子には一円も残さんぞ。さあ、どうする?」
太一郎は一瞬、何を言われたのかわからなかった。
だが気づいたあとは、怒りより脱力感のほうが大きい。
「あのな祖父さん。金はない方が幸せになれるんだぜ。ペットボトルのお茶を一本おごってもらうだけで、ありがたいって思えるんだ。無駄なことに使うより、感謝されることに使えよ。仮にもあんたはさ、この国を動かしてきたひとりなんだろ?」
「……」