愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
『祖母上は、お前の子供の顔が見られると喜んでいる。同じ歳のはとこなら、兄弟同然に仲よく育って欲しい。そうなれば、まるで夢のようだと言ってるんだ。がっかりさせる理由も必要もないだろう?』


卓巳の言うことは正しい。

だが、太一郎自身が皐月の血の繋がった孫ではないのだ。なのに、『曾孫のために』という色々な気遣いを聞くと、申し訳なさに身が竦む。


「万里子さんの赤ちゃんと同じだけの用意を、と言われて……。わたしの父も母も知らん顔なのに、申し訳なくて」

「お前は気にしなくていい。言っただろ? 俺は心配や迷惑ばっかりかけてきたんだ。でも、結婚と子供のことを聞いて、本当に嬉しそうだった。ばあさんに喜んでもらえるなら……」

「でも、信託財産までは、わたし」


皐月は、出産前に自分の身に何か起きることまで案じたようだ。太一郎の子供に、信託財産を残したいと言い始めたのである。


「そ、その件は、とにかく万里子さんにでも話してもらうから、さ。だから」


太一郎の口から万里子の名前が出た瞬間、奈那子の瞳が翳った。


「いい方、ですよね。千早物産を紹介して下さったのも、万里子さんとか」

「ああ、ホント世話になりっ放しだよ、頭が上がんねぇ。あの人は、さ、俺にとって特別だからな」


その何気ないひと言が、奈那子を傷つけたなど……思いもしない太一郎だった。  


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