愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
太一郎は千早物産の食品定温、チルド倉庫で働いている。

到着商品の仕分けや、出荷商品の搬出作業をしているという。以前に比べると勤務時間も減り、睡眠が充分に取れるようになった。そのおかげで体重も戻り、奈那子もホッとしていた。


「はい。太一郎さんも怪我のないように、気をつけてくださいね。いってらっしゃいませ」


出勤前に太一郎は必ず奈那子の髪に触れ、頭を撫でるような仕草をする。

他にも何かしたそうなのだが、それだけで手を引っ込め「行って来る」と短く言い、背中を向けるのだ。

実を言えば入籍からひと月経つが、再会以降、ふたりの関係はプラトニックなままだった。

それも奈那子にとっては不安のひとつで……。


太一郎が見えなくなるまで、その後ろ姿を見送り、奈那子は部屋に戻る。

玄関脇の表札には、


『藤原太一郎・奈那子』


と書かれていて……。


(本当に、太一郎さんの奥さんになったのね)


その都度、小さな幸せを噛み締める奈那子だった。


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