愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
奈那子の胸に、消えない罪悪感が付き纏う。

太一郎のためだと説得され、簡単に子供を堕ろしてしまった。手術のあとで、どれほど後悔したか知れない。もし、次に母親になれる機会が巡ってきたら、今度こそ必ず産もうと心に決めた。

太一郎に奈那子を迎えに来る意思はないだろう。でも、奇跡を信じて待ち続けたい。それがたとえ一生になっても……。

その願いが叶ったとき、奈那子のお腹にいるのが太一郎の子供ではないなんて。神様はあまりに厳しい。奈那子は子供を堕ろした罰を与えられたのだと思う。それに太一郎まで巻き込んでしまったのが辛かった。



「子供が産まれたあとにっておっしゃって下さるんですけど。太一郎さんの本音は、他の男性の子供を妊娠したわたしなんて、抱きたくないんじゃないかと思って」


奈那子は次第に声が小さくなり、涙で視界が歪んだ。

そのとき、奈那子の手に万里子の手が重なった。奈那子が顔を上げると、彼女の瞳にも大粒の涙が浮かんでいる。


「わたしも……子供を堕ろしたことがあるのよ……」


その万里子の告白は、今の幸福そうな彼女からは想像もできないことだった。妊娠の原因や、術後の医者の診断――。

驚きのあまり、声を失う奈那子に、万里子は言葉を続ける。


「わかってすぐに、冷静な判断なんて下せない。強く説得されたら、誰だってうなずいてしまうと思う。わたしは……自分の中にエイリアンが息づいてるようで怖かった。自分の子供を殺してしまったと思ったのは、手術を受けたあとだったわ。だから、わたしも思ったの……もし、母親になることができるなら、その原因がなんであれ、必ず産もうって。奈那子さん、赤ちゃんは神様の贈り物よ。決して罰なんかじゃない! たくさん後悔したから、赤ちゃんがママを許して、戻って来てくれたのよ。太一郎さんの言うとおり、赤ちゃんのパパは太一郎さんだわ!」


――奈那子は悪くない。子供を産むことは間違っていない。


万里子の言葉を何度も胸の中で繰り返し、うなずく奈那子だった。


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