愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
そんな奈那子の様子にビビッたのが太一郎である。


(俺、なんかしたのか? 下着を買う金もない、なんてことは……ないよな)


奈那子の悩みを知らない太一郎には、自分がどれほどトンチンカンなことをしでかしているか、さっぱりわからない。


「なぁ、奈那子。怒ってるのか?」

「いえ、違います。本当にごめんなさい……わたし、いえ、いいんです」

「よくないって。言いたいことがあるなら言ってくれよ。自慢じゃないが、女心ってやつは俺にはさっぱりわかんねぇ。でも、お前を傷つけようなんて欠片も思ってないんだ。だから」

「抱いて……くれませんか?」

「え……」

「本当の夫婦になりたいんです」


思い詰めた奈那子の様子に、太一郎は息を呑んだ。

太一郎とて、本当はやりたい。だが、乱暴なセックスしか知らないという自覚がある。夢中になって、奈那子や子供に何かあっては取り返しがつかないのだ。

それにやはり、自分の子供じゃない、という遠慮もあった。


不思議と、愛せなかったらどうしよう、とは思わない。

血の繋がりがすべてじゃないと、太一郎は人生において学んだ。それは藤原家の庭師・柊(ひいらぎ)が、祖父と千代子の間にできた子供だと知ったとき、より強く感じた。

柊は実の父より育ての両親を選んだのだ。あの卓巳ですら『血は水より濃いが、愛情には敵わない』と言っていた。


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