愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
(39)我が子
特別室から、赤ん坊の泣き声が廊下に響く。

予定日当日、万里子は超スピード安産で男の子を出産した。太一郎と奈那子がお祝いに駆けつけたのは、その翌日だった。


「本当に可愛いですね! 王子様の誕生に、卓巳さんはなんておっしゃいました?」


奈那子も、卓巳が女の子と信じていたのはよく知っている。

まさか文句は言うまいが、がっかりしているのではないかと心配になった。


「ええ、産まれる前は色々言ってたけれど……今は嬉しくて仕方がないみたい。母子ともに問題ないって言われて、引き摺られるように仕事に行ったわ。とっても忙しい時期だから」


さすがの万里子も少しやつれていた。

それでも待望の息子を抱き、満面の笑顔を見せる。


「万里子さんは……本当に大丈夫ですか?」

「ええ。平気よ」

「あの……痛かったですか?」

「すっごく! 呼吸法なんてどこかに飛んで行っちゃうくらい」


奈那子の隣で太一郎が「マ、マジか?」と青くなっている。


「でも……泣き声が聞こえた瞬間、世界の色が変わったわ。辛いことはたくさんあったけれど……生きていて本当によかった。この子がわたしに、生きる意味を教えてくれたのよ」


化粧もしておらず、髪も無造作に束ねただけだが、万里子は輝いていた。


(わたしも……万里子さんのようになれるかしら?)


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