愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
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藤原グループ先代社長を祖父に持つ太一郎は、物質的になんの不自由もない少年時代を送った。

生まれたときから次期後継者と言われ、多くの従業員にかしずかれて育つ。母は、ひとり息子の太一郎が何をしても怒らず、父は怒れない人であった。

祖父・高徳は決して太一郎を愛していたわけではない。

気に食わぬ正妻・皐月の産んだ息子に、自身が一代で築き上げた財産を譲りたくなかっただけなのだ。

だからこそ『愛人の娘』である太一郎の母・尚子を呼び寄せ、婿養子まで取らせた。生まれた孫を傀儡にして、いつまでも君臨したかったのだろう。
 

そんな祖父の思惑など知らず、太一郎は後継者となるべく努力した。だが、彼のどこを探しても、日本最大のコンツェルンを率いる能力など欠片も見つからず……。

そのことに自覚の芽生えた太一郎は、暴力という単純な反抗手段に出たのである。


こういった反抗は、無意識のうちに大人の関心を惹くことが目的だという。

太一郎も同じだった。だが、彼は誰の関心も惹けぬまま――暴力はより弱い者へと向かって行く。成長と共に卑怯な手段も用いるようになり、ついには女性に対して性的暴力を犯すまで堕ちて行った。


彼は藤原の名前を使い、多数の女性を騙しベッドに連れ込んだ。

中には――『愛人の孫』である自分は、『正妻の孫』である卓巳にすべてを奪われたのだ、という御託を信じた女性もいた。太一郎に同情し、婚約者には許さなかった身体を彼に投げ出し、妊娠したときにはどうしても産むと言い張った。

だが、女性の父親は代議士で、太一郎の本性を見抜いていた。結局、子供は中絶し、女性は婚約者の元に嫁いだという。


高校時代から昨年まで、太一郎が知るだけで女性に中絶費用を要求されたことは二桁に達する。慰謝料の名目なら、その倍はあるだろう。

自堕落に、愚者を絵で描いたような生き方を続けてきた彼に、転機が訪れたのが卓巳の結婚だった。


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