愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
「オヤジはもうオマエと関わりたくないんだってさ。だから、オレが来たんだよねぇ。朝早く起こされてさ……ホント迷惑」
「どうもすみません。よろしく……お願いします」
「ああ、わかった、わかった」
携帯を触りながら、太一郎を追い払うように手を振った。
等が腕に嵌めたロレックスは、見るからに偽物である。だが、おそらく本人も気づいてはいないだろう。
(俺も……こんなもん、か)
そう思うと、太一郎には等に対する怒りなど沸いて来ない。むしろ、憐れみに近い感情を覚え、太一郎は切なかった。
そのまま小さな声で「失礼します」と伝え、社長室をあとにしたのである。
「伊勢崎!」
会社の敷地から出たとき、不意に背後から声をかけられた。
「伊丹さん。あの……お世話になりました。本当はもっと長く勤めたかったんですけど」
「ああ、いい。わかってるよ。運が悪かったな……」
伊丹清(いたみきよし)、四十を少し超えたばかりだと聞いている。
太一郎にこの仕事を教えてくれた先輩であり、相棒だ。
若いころには悪さもした、と言い、背中の入れ墨を見せてくれた。傷害の前科があり、刑務所に入ったことで目が覚めたのだという。
伊丹は一目で太一郎の背負った業の深さを察してくれた。
当初、ささくれ立つ太一郎を相手に、文句も言わず付き合ってくれた唯一の人間だ。
「どうもすみません。よろしく……お願いします」
「ああ、わかった、わかった」
携帯を触りながら、太一郎を追い払うように手を振った。
等が腕に嵌めたロレックスは、見るからに偽物である。だが、おそらく本人も気づいてはいないだろう。
(俺も……こんなもん、か)
そう思うと、太一郎には等に対する怒りなど沸いて来ない。むしろ、憐れみに近い感情を覚え、太一郎は切なかった。
そのまま小さな声で「失礼します」と伝え、社長室をあとにしたのである。
「伊勢崎!」
会社の敷地から出たとき、不意に背後から声をかけられた。
「伊丹さん。あの……お世話になりました。本当はもっと長く勤めたかったんですけど」
「ああ、いい。わかってるよ。運が悪かったな……」
伊丹清(いたみきよし)、四十を少し超えたばかりだと聞いている。
太一郎にこの仕事を教えてくれた先輩であり、相棒だ。
若いころには悪さもした、と言い、背中の入れ墨を見せてくれた。傷害の前科があり、刑務所に入ったことで目が覚めたのだという。
伊丹は一目で太一郎の背負った業の深さを察してくれた。
当初、ささくれ立つ太一郎を相手に、文句も言わず付き合ってくれた唯一の人間だ。