愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
その日が近づくごとに、奈那子の不安はどんどん大きくなる。

太一郎を愛すれば愛するほど、幸せなら幸せなだけ、幸福に不慣れな奈那子は怖くて堪らない。

それでいて、父が家を出て離婚間近だという両親や、ひとり暮らしの祖父のことも気にかかっていた。


そんな奈那子の、心細そうな微笑に気づいたのだろう。


「奈那子さんも、もうすぐよ。男の子だったら友達になれると思う。女の子だったら……この子のお嫁さん!」


万里子の楽しげな言葉に、奈那子も笑いが零れる。


一方、太一郎は「笑えねぇ。ちっとも笑えねぇ」とブツブツ呟いていた。



~*~*~*~*~



そろそろ授乳の時間と言われ、太一郎は雪音に追い出された。

奈那子は後学のため、その様子を見ていたいと言うので、太一郎はひとりで病院内をうろつくことになる。


「“パパ”って柄じゃねぇよな。“お父さん”か。息子なら“親父”って言い出すかもな。でも……女の子なら“パパ”って呼ばれてみてぇかも」


周囲から笑いが零れ、太一郎は我に返った。

そこはエレベーターの中、見舞い客らしい人たちが乗り合わせていた。どうやら、太一郎は思ったことを声にしていたようだ。

その中の中年女性に「頑張ってね、新米パパさん」そう声をかけられ……。


「はぁ……どうも」


エレベーターが開いた瞬間、階も見ずに飛び出した太一郎だった。


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