愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
今日の万里子を見て、改めて女は凄いと思った。

男では陣痛の痛みに耐えられない――何かの本にそう書いてあった気がする。万里子も凄く痛かったと言いながら、次は女の子が欲しい、と笑っていた。

昨日の今日だ。普通なら『痛い思いはもういい』『しばらくはごめんだ』と考えるだろう。

だが、母親にとって出産は別らしい。


(男には永遠にわかりそうもねぇな)


とはいえ、さっきの万里子は、ひと月後の奈那子の姿だ。

ああやって子供を腕に抱き、母乳を飲ませ、頬擦りして喜ぶのだろう。

そう言えば、風呂に入れるのはパパの役目だと同僚に聞いた。だが、あんな小さな物体を湯に浸けるなんて、とてもできそうにない。


(ダメだ、絶対に壊す! 不器用だし……馬鹿力だし……) 


三十分程ぶらついて、特別室に戻る約束である。

最初は一階の売店に行き、コーヒーでも飲もうと思っていた。

しかし、途中でエレベーターを降りてしまい……。やたらにうろついていては、不審者に間違われるかもしれない。

奈那子が出て来るまで、特別室前の廊下で待っていよう。

太一郎はそう考え、最上階に戻ることにしたのだった。


そして彼は、予想外の人物と顔を合わせることになる。


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