愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
どこかで見たことのある中年男がそこにいた。

最上階は特別室のみだ。案の定、警備員が飛んできて中年男を階下に追い払おうとする。


「私は桐生源次だぞ! ここに娘が入って行ったから、会いに来ただけだ!」


その言葉に太一郎も男の正体がようやくわかった。

奈那子の父だ。


昨年、太一郎が会ったのは私設秘書の白石だけである。桐生は卓巳とは会って話をしたはずだが、太一郎のことは相手にもしなかった。


“娘を疵物にした血統書つきの駄犬”――桐生が太一郎を指して言った言葉だと聞く。


太一郎は一歩踏み出し、なんと声をかけるか悩む。

奈那子は両親の離婚が秒読みだと、悲しそうに言っていた。

とりあえず、


「桐生さん。あの、藤原太一郎です。どうして、あなたがここへ?」


そして、真正面から桐生代議士――いや、元代議士の顔を見て驚いた。


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