愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
無精ひげを伸ばしたまま、頬はこけ、目は窪んでいる。収賄罪が疑惑で済まず、桐生老のバックアップが無くなった途端、議員辞職を余儀なくされたという。

無論、泉沢のほうもズタボロで、清二は残った資産をかき集めて海外に逃げたらしい。

できれば二度と戻って来なければいい。奈那子と子供に関係のない場所で、好きにやって欲しいと思っている。


「貴様か……私の計画をボロボロにしおって! 私の完璧な人生が……貴様と馬鹿な奈那子のせいでおしまいだ!」


その言葉に太一郎はカチンと来る。

娘をたぶらかしたと罵られるのは構わない。だが、清二のような男を婚約者に決め、奈那子にあてがったのはこの桐生だ。


「言うことはそれだけか? 奈那子はもうすぐ臨月なんだぜ。いたわる言葉もないのかよ!」

「臨月? だからなんだ。お前のときのように、とっとと堕ろせばよかったものを。そうすれば、知られることはなかったんだ! それが、お前のようなクズと結婚するとは」


太一郎は、こいつは奈那子の父親なんだ、と懸命に自分を抑える。


「俺がクズなのは言われなくてもわかってる。でも、奈那子はあんたの娘だろ? 孫が産まれるんだぞ。あの妖怪祖父さんでも、曾孫がどうとか言ってたぜ。それをあんたは……」


次の瞬間、桐生は頬を歪ませ太一郎を馬鹿にするように嗤(わら)った。


「あんな女、娘でもなんでもない。何年経っても、奈那子の下が産まれず……。病院に行ったら、私に子供は作れないと言われたさ。あのクソ女、何年も私を騙し続けたんだ! 浮気して作った子を堂々と産みやがって」


桐生の目に浮かぶのは憎しみだけだった。


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