愛を教えて ―輪廻― （第一章 奈那子編）
この病院はどうも藤原家とは相性が微妙だ。

太一郎は万一に備えて、桐生を特別室の方向にだけは行かせまいと警戒する。


「その文句なら、テメェの女房に言え。奈那子には関係のないことだ」

「言ってやったさ。母親が母親なら娘も娘だ。簡単に貴様のようなろくでなしに脚を開いて、すぐに孕む。泉沢の次男坊に与えてやったのはひと晩だけだぞ。それを」


次の瞬間、太一郎は桐生を殴り倒していた。

理屈じゃない。腹の底から、煮えたぎるような感情が突き上げてくる。

太一郎の握り締めた拳が小刻みに震えていた。


「それを奈那子に言ったら……殺してやる」


掠れた声で太一郎は言う。

だが、桐生は口元を拭うとニヤッと笑い、ひと際大きな声を出した。


「他の男の子供を亭主の実子にするなんざ、中々できることじゃない。母親によく似た恥知らずな女だ。恩を仇で返しやがって！　わかったか、奈那子！　お前はこの私の娘なんかじゃない！　どこの馬の骨かわからん男のガキなんだ！」


桐生の目は太一郎を素通りし、背後の人物を見ていた。


そこには、変わり果てた父の姿に目を潤ませ、立ち尽くす奈那子がいたのである。


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