愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
“常位胎盤早期剥離(じょういたいばんそうきはくり)”


卓巳が病院側と連絡を取り、確認した診断名だ。

当初、出血量から前置胎盤が予想された。だが、つい先日の診察で胎盤の位置は正常と確認されたはずなのだ。

精査の結果、胎盤の剥離が確認される。

外出血の多さは剥離が子宮口に近い場所だったことが原因とわかった。


倒れた場所が病院であったこと。それも、救急体制が整ったICUのある大学病院であったのが不幸中の幸いとなる。

奈那子は緊急帝王切開が決まり、つい先ほど手術室に運ばれたのだ。



「太一郎、とにかく着替えて来い。その格好じゃ、女房子供と対面できんぞ」


卓巳はそう言うと、病院の売店に用意されているジャージを差し出した。

だが、太一郎は力なく首を振る。


「太一郎っ!」

「奈那子が……奈那子が言ったんだ」


卓巳に襟首を掴まれた途端、太一郎が掠れる声で話し始めた。


「帝王切開って言われて、ストレッチャーに乗せられて……奈那子は言った。……もし自分が死んでも、この子を恨まないで欲しい。この子にだけは産まれて来なければよかったとは、言わないで……って」


そう言うと、太一郎は力なく床に崩れ落ちた。


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