愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
自分より大柄な従弟が、小さな子供のように床に突っ伏して泣き始める。

この一日前、無事父親になった卓巳には、これ以上今の太一郎にかける言葉が見つからない。


常位胎盤早期剥離の原因は不明とされている。

幾つかの可能性はあるらしいが、前置胎盤と違うのは定期検診ではわからない点だろう。


万里子の母は前置胎盤で母子とも亡くなっている。

今から二十年近く前は、まだ超音波でそこまでの判断ができなかった。現在なら、定期検診で防げたかもしれないアクシデントだ。


だが現在においても、胎盤の早期剥離は突発的に起こる。事前の予測がつかず、転倒など外的要因でも起こるという。

今回の場合、父親の言葉による心理的な要因が大きいと思えるが……。

それを証明する手段はなかった。



「俺の……せいだ。あんな野郎に好き放題言わせて、黙らせることのできなかった、俺の」

「太一郎、それは違う」

「全部俺のせいなんだ! 奈那子は俺の本性を知ってるから……あの男と同じように、俺が子供を傷つけると思って……」

「しっかりしろっ! 誰もそんなことは言ってない!」

「金がなくて、ちゃんと病院に行かせてやれなかったから。いや、俺が中絶させたことが原因なのかもしれない。俺のせいで……俺が奈那子を死な」


その不吉な言葉を、卓巳は力尽くで黙らせる。


次の瞬間――手術室から小さな声が聞こえた。


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