愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
(42)命の灯
産声を耳にした瞬間、太一郎は卓巳と手を取り合っていた。

卓巳の存在を知ったとき、太一郎の胸に嫉妬と羨望を纏った悪魔が棲み付いた。万里子を欲しいと思ったあとは、彼自身が悪魔と化していたように思う。


そして藤原家から離れ、太一郎の中に自尊心が芽生えたのだ。

今度はそのために、素直に頼ることができなくなっていた。


だが、太一郎の窮地に卓巳は駆けつけてくれた。そして今も……あまりの感動に声も出ない太一郎の肩を抱き、卓巳は一緒に喜んでくれている。


いつか――もし、いつの日か、卓巳や彼の息子が困ったときは、何をおいても必ず駆けつけよう。

太一郎はそんな想いを胸に刻み込む。


そして手術室の扉が開いたとき、喜びと安堵は脆くも崩れ去る。


< 217 / 240 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop