愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
(6)魔女の誘惑
二十分後、太一郎は郁美の運転するロードスターの助手席に乗っていた。


「等さんの会社まで送って行ってあげるわ。乗りなさいよ」


場所はわかっているから電車で行く――そんなふうに太一郎が告げても引き下がろうとしない。

郁美の魂胆はともかく、駅の近くには交番がある。昨日の今日で騒動は起こしたくない。その思いから、太一郎は郁美に従った。


「ねぇ、ホントのとこはどうなの?」

「何がです?」

「やぁだ! 気取らなくていいわよ。あたしに興味があるんなら、正直に言いなさいな」


派手なゴールドのピアスを付け、左右の手に二個ずつ重そうな指輪を嵌め、付け爪にもすべて金色のラメが入っている。朝からご苦労なことだ。

しかも、サングラス越しに太一郎に向ける視線は……午前と午後を間違えているように思えてならない。


「亭主が色々あなたのことを調べてたわ。昨夜、こっそり家に帰ったら、リビングに調査資料が置いてあったの。あなた、随分無茶して来たみたいねぇ」


社長の名村は太一郎を――危険極まりない、解雇できてよかった、顔を見るのも御免だと言い、息子を代わりに寄越したという。

郁美にも、狂犬に噛まれたと思って忘れろ、二度と近づくなと言ったそうだ。

だが、その態度が太一郎には逆に名村を好人物に思わせた。

太一郎の過去を知れば、普通はそうだろう。しかし、藤原と繋がりを持てるならと、裏で唾を吐きながら、表向き擦り寄ってくる輩のほうが多い。


その中でもこの郁美のような女は、あからさま過ぎて気持ちが悪い。


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