愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
奈那子の瞼が微かに動き、掠れた声で夫の名を呼んだ。


「奈那子……目が覚めたか? 気分は悪くないか?」

「わたしの……赤ちゃん……」


全身麻酔で産声も聞けなかったのだろう。奈那子は真っ先に子供の心配をする。


「女の子だよ。小さいけど、ちゃんと産声を上げたんだ! きっと、すっげぇ美人になる」


太一郎は懸命に明るい声を出した。


「抱っこ……できない?」

「それは……」

「早産だったでしょう? 小さめの赤ちゃんは保育器に入れて、様子を見ることになってるのよ。お母さんが早く元気になって、母乳を飲ませに行かないとね」


口籠もる太一郎の横から、看護師が答えてくれた。


すぐに数人の医者がやって来る。

彼らは奈那子の身体に繋がれた、たくさんのモニターをチェックした。極めて機械的ではあるものの、その表情から緊張が消えることはない。

そして、


「藤原さん。先ほど申し上げましたとおり、経過が思わしくありません。手遅れにならないうちに、子宮の全摘出が望ましいと思われます。奥さんも、よろしいですね?」


そう告げたのだった。


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