愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
年明けまでは、父子で藤原邸に住まわせてもらっていた。

さすがに、新生児の面倒をみながら仕事には行けない。

万里子の父、千早社長は育児休暇をくれると言った。だが、入社間もない太一郎にとって、度を過ぎた特別扱いは彼自身が働き辛くなるだけだ。

今は、出勤前に美月を万里子に預け、仕事が終わるとその足で迎えに行く。あんなに心配していた入浴も、太一郎はひとりでできるようになっていた。


卓巳や万里子にはもう充分世話になっている。

親として、可能な限り自分の力で頑張りたいと太一郎は思っていた。



「ほぅら、美月ちゃん、パパのお迎えよ!」


藤原邸にいるときの美月は、衣装をとっかえひっかえのお姫様扱いだ。

万里子や雪音は、卓巳が揃えたベビー服が無駄にならずによかったと笑う。

だがその雪音も、先月妊娠が判明した。今月末には宗の勤務する北海道で結婚生活を始めるという。


「卓巳さんは、これを機に資格をもったナニーを雇うと言い出したんだけど……」


卓巳はナニーと看護師、保育士など数名雇い入れようと計画したらしい。だが、子供は自分の手で育てると万里子に一蹴され、断念したと聞く。

その代わり、子育て経験のある女性や体力のある若い女性を、数名メイドとして雇い入れることに決まった。


「茜さんは……なんでも色々あって、ご実家のお店を手伝うことになったんですって。残念ですけれどって、お母様と一緒に断りに来られたのよ」


万里子は茜の一件に、太一郎が関わっていることは知らないままだ。

本当に母親の傍から離れられなくなったのか。もしくは、太一郎の正式な結婚と子供が産まれたことを聞き、会いたくなかったのか。


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