愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
どちらにせよ、ふたりの歩く道はわずかに掠っただけ……

重なる運命ではなかった。



「でも、太一郎さん。明日は大事な日なんだから……今日くらい休んでもよかったんじゃない?」

「そうは行くかよ。慶弔休暇は明日から一週間取ってるんだ。俺がきっちり働いて、生活基盤を安定させないと……奈那子が安心できないだろ?」


真面目に働き始めて一年が過ぎた。

どうやら太一郎は、何ごとも中途半端にはできない性格らしい。期待に応えられない苛立ちから、放蕩の限りを尽くしたのも、何ごとも深刻に考える性質ゆえだろう。

仕事の覚えは決して早いほうではない。だが、彼の真摯な姿勢と無骨さが、仕事仲間には受け入れられて来ている。

千早社長も、将来的には営業や企画も覚えて行けばいい、と言う。

当初、出世を目指すつもりなど全くなかった。

でも今は、それが家族のためになるなら頑張ってみようと思い始めている。

それも藤原で自動的にもらえる肩書きではなく、自分の力で何かを手にできたなら……。


『どうせ、俺なんか』


長年、彼を煩わせ続けた劣等感が、少しずつ消え始めていた。



「美月! 明日はメチャクチャ可愛いカッコしような。ママが待ってんだから……いつも以上に笑えよ」


美月はわかってるのか、「ママ」の単語を聞くとニコッと微笑むのだった。


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