愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
「ねえ、わかってるのよ。あなたがあたしを庇ってくれた理由。アパートで待ってる子は妊娠したから仕方なく、なんでしょ? だって、入籍してないんだもの。妊婦相手じゃ溜まってるはずよ。あたしのこと……試してみたくない?」


太一郎が何も答えないのをいいことに、郁美は言いたい放題だ。

彼女の頭の中では、等との浮気をバラさなかったことが、郁美を庇ったことに都合よく入れ替わっている。


「いや……俺は別に庇ったわけじゃないし……」

「亭主はもう、いい歳をしたおじいちゃんでしょ? 三回に二回は駄目なのよねぇ。等さんはプレイボーイを気取ってるけど、腰が弱くてアソコもフニャフニャ。女盛りを満たしてくれる、強~いオトコが欲しいのよねぇ」


その瞬間、郁美は急ハンドルで左折し、車を人気のない公園の横に停めた。

そのままサングラスを外し……舌舐めずりしながら太一郎の身体を見ている。特に、郁美の視線がジーンズのファスナー辺りを彷徨ったとき、太一郎の背中に悪寒が走った。


その目は、太一郎を散々躍らせてくれたメイドの永瀬あずさを思い出させた。

あずさは卓巳にふられた腹いせで、太一郎と寝るようになった女だ。そのくせ、太一郎の母・尚子には「太一郎様にレイプされた」と泣きつき、ちゃっかり金をせびっていた。

この郁美よりだいぶ若いが、離婚経験があり、男――セックスなしでは一週間と過ごせない身体だった。本人が言ったわけではないが、おそらく風俗で働いた経験のある女だろう。


同じ匂いを、この郁美からも感じる。

男を喰い物にして生きる女――反吐が出そうな所が、処女を喰い物にする自分に似合いだ、そんなふうに自嘲していた昔を思い出す。


郁美の魔女のような指が、太一郎にジーンズに触れた。


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