愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
毛の生えた郁美の心臓も、さすがにドキンとする。彼女は夫に内緒で大量のカードを作り、現金借入やブランド品の購入など、一千万円近くのローンを抱えていた。
「わしの名前を勝手に使って……実印まで……不動産担保のローンにも申し込んでいたらしいな」
「た、試しに、申し込んでみただけよ。審査だけでもって言われたから」
「会社に連絡があった。……断ったがな」
(なんて使えない会社なのっ!)
連絡は自宅に、と郁美はしつこく言ったのだ。
「郁美……わしは人を見る目を失くしたようだ。残念だよ。借金はわしが払っておこう。その代わり、この離婚届にサインをしなさい」
「い、いいわよ。ただし、慰謝料はちゃーんと払ってくれるんでしょうねっ!? 若いあたしが、あんたみたいな年寄りに抱かれてやったんだから。こんなもんで済むと思ったら大間違いよ!」
「弁護士さんに相談した。お前が黙って離婚届にサインしないなら、コレを持って警察に告訴する。文書の偽造とか、色々罪になるんだそうだ。わしはそこまでしたくない。だが、これ以上は無理だ。会社まで潰したら、一緒に苦労してくれた女房にあの世で合わせる顔がない」
どうやら名村は本気らしい。
郁美はこれ以上ねばって警察沙汰になるよりは、と思った。
「サインね。じゃ、これで成立ね。ロードスターはあたしの名義なのよ、乗って行きますから! ああ、それと、靴もバッグも宝石も、あたしにくれたものは全部持って出ますから」
「女房が持っていた指輪は置いて行ってくれ。あれだけは」
「おあいにく様! あなたの今の女房はこのあたしなのっ!」
当座の現金ならヘソクリがある。あと、日付の入ってない小切手も。
郁美は名村の懇願も振り切り、持てる物は根こそぎ抱え、名村家をあとにした。
「わしの名前を勝手に使って……実印まで……不動産担保のローンにも申し込んでいたらしいな」
「た、試しに、申し込んでみただけよ。審査だけでもって言われたから」
「会社に連絡があった。……断ったがな」
(なんて使えない会社なのっ!)
連絡は自宅に、と郁美はしつこく言ったのだ。
「郁美……わしは人を見る目を失くしたようだ。残念だよ。借金はわしが払っておこう。その代わり、この離婚届にサインをしなさい」
「い、いいわよ。ただし、慰謝料はちゃーんと払ってくれるんでしょうねっ!? 若いあたしが、あんたみたいな年寄りに抱かれてやったんだから。こんなもんで済むと思ったら大間違いよ!」
「弁護士さんに相談した。お前が黙って離婚届にサインしないなら、コレを持って警察に告訴する。文書の偽造とか、色々罪になるんだそうだ。わしはそこまでしたくない。だが、これ以上は無理だ。会社まで潰したら、一緒に苦労してくれた女房にあの世で合わせる顔がない」
どうやら名村は本気らしい。
郁美はこれ以上ねばって警察沙汰になるよりは、と思った。
「サインね。じゃ、これで成立ね。ロードスターはあたしの名義なのよ、乗って行きますから! ああ、それと、靴もバッグも宝石も、あたしにくれたものは全部持って出ますから」
「女房が持っていた指輪は置いて行ってくれ。あれだけは」
「おあいにく様! あなたの今の女房はこのあたしなのっ!」
当座の現金ならヘソクリがある。あと、日付の入ってない小切手も。
郁美は名村の懇願も振り切り、持てる物は根こそぎ抱え、名村家をあとにした。