愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
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「まったく、こういった仕事は手際のいい奴だな」
藤原本社ビルの最上階、社長室の机に長い脚を持て余すように腰かけ、卓巳は言った。
「お褒めに預かり光栄です。今回は上等な餌を撒いていただいたので、仕上げは楽でした」
そう言ってニッコリ笑ったのは、一旦、卓巳の個人秘書を辞めることに決まった宗だ。
郁美の不貞の証拠を集め、借金の額まで調べ上げた。さらには、不動産担保の件を会社に通報し、審査の本人確認を徹底させたのも彼である。
「それで、起訴されそうか?」
「名村社長の温情まで踏み躙りましたからね。少しは反省の必要があるかもしれません」
「あの女を見ると永瀬あずさを思い出す。今からでも叩き込んでやりたいくらいだ」
だが、あずさを追い込み過ぎては、万里子の過去を言いふらしかねない。とはいえ、今度同じ真似をしたときは……。
「社長――行方不明者は年間一万人も出ている、なんてことは考えておられませんよね?」
「馬鹿を言うな。私は間もなく父親になるんだぞ。そんな不見識なことを考えるものか!」
考えたのは少しだけだ、とは言えない卓巳だった。
後日、名村社長は郁美が指輪を返して来たから、と卓巳に告訴取り下げを頼みに来た。
盗難事件はなかったことになり、二度と、郁美が太一郎の前に現れることはなかったのである。
~fin~
「まったく、こういった仕事は手際のいい奴だな」
藤原本社ビルの最上階、社長室の机に長い脚を持て余すように腰かけ、卓巳は言った。
「お褒めに預かり光栄です。今回は上等な餌を撒いていただいたので、仕上げは楽でした」
そう言ってニッコリ笑ったのは、一旦、卓巳の個人秘書を辞めることに決まった宗だ。
郁美の不貞の証拠を集め、借金の額まで調べ上げた。さらには、不動産担保の件を会社に通報し、審査の本人確認を徹底させたのも彼である。
「それで、起訴されそうか?」
「名村社長の温情まで踏み躙りましたからね。少しは反省の必要があるかもしれません」
「あの女を見ると永瀬あずさを思い出す。今からでも叩き込んでやりたいくらいだ」
だが、あずさを追い込み過ぎては、万里子の過去を言いふらしかねない。とはいえ、今度同じ真似をしたときは……。
「社長――行方不明者は年間一万人も出ている、なんてことは考えておられませんよね?」
「馬鹿を言うな。私は間もなく父親になるんだぞ。そんな不見識なことを考えるものか!」
考えたのは少しだけだ、とは言えない卓巳だった。
後日、名村社長は郁美が指輪を返して来たから、と卓巳に告訴取り下げを頼みに来た。
盗難事件はなかったことになり、二度と、郁美が太一郎の前に現れることはなかったのである。
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