愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
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大学構内の一番目立たない場所にある自動販売機の前に、太一郎は立っていた。ポケットから小銭を掴み出し、その中から三百円を入れてスポーツ飲料を二本買う。
後方のベンチに座る茜にチラリと視線をやり、太一郎はこっそりと溜息を吐いた。
ロードスターの中で郁美を脅しつけてから、早一週間――。
そこそこの修羅場は潜り抜けている女だが、太一郎が牙を剥くとは思ってもいなかったのだろう。車を降りた彼のあとを追って来ることはなかった。
だが、四日目には情夫の等を使い、嫌がらせをして来たのだ。
官公庁の担当に決まった太一郎が、いきなり勤務場所を変更され、このW大の清掃に回された。
半年前まで通っていた大学である。それほど真面目な生徒でなかったとはいえ、他人が四年のところを六年近く通ったのだ。顔見知りはひとりやふたりでは済まない。
郁美はそれを承知で太一郎をココに回した。
そして、今日で三日目である。
幸いここまでは誰にも会ってはいない。つるんでいた連中のほとんどが、三月には卒業しているはずだから当然かもしれないが。
「ホラ。飲めよ」
差し出されたペットボトルを、茜は恐る恐る手に取った。
「あの……何されてるんですか?」
「仕事だよ」
「藤原グループに役付きで入るって聞きましたけど……。研修とか?」
一般社員ならともかく、役付き社員の研修でトイレ掃除をやらせる会社はまずないだろう。
太一郎がベンチに腰かけようとしたとき、茜はビクッと身体を震わせた。
大学構内の一番目立たない場所にある自動販売機の前に、太一郎は立っていた。ポケットから小銭を掴み出し、その中から三百円を入れてスポーツ飲料を二本買う。
後方のベンチに座る茜にチラリと視線をやり、太一郎はこっそりと溜息を吐いた。
ロードスターの中で郁美を脅しつけてから、早一週間――。
そこそこの修羅場は潜り抜けている女だが、太一郎が牙を剥くとは思ってもいなかったのだろう。車を降りた彼のあとを追って来ることはなかった。
だが、四日目には情夫の等を使い、嫌がらせをして来たのだ。
官公庁の担当に決まった太一郎が、いきなり勤務場所を変更され、このW大の清掃に回された。
半年前まで通っていた大学である。それほど真面目な生徒でなかったとはいえ、他人が四年のところを六年近く通ったのだ。顔見知りはひとりやふたりでは済まない。
郁美はそれを承知で太一郎をココに回した。
そして、今日で三日目である。
幸いここまでは誰にも会ってはいない。つるんでいた連中のほとんどが、三月には卒業しているはずだから当然かもしれないが。
「ホラ。飲めよ」
差し出されたペットボトルを、茜は恐る恐る手に取った。
「あの……何されてるんですか?」
「仕事だよ」
「藤原グループに役付きで入るって聞きましたけど……。研修とか?」
一般社員ならともかく、役付き社員の研修でトイレ掃除をやらせる会社はまずないだろう。
太一郎がベンチに腰かけようとしたとき、茜はビクッと身体を震わせた。