愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
卓巳の妻・万里子は、たおやかで儚い女性だ。見るからに弱々しく、押さえつければなんでも言いなりにできると思った。

最終的には、金さえ払えばどんな罪も赦される。

そう思っていた太一郎に、万里子は手痛い一撃を与えたのである。


卓巳を愛している、卓巳でなければ嫌だと……万里子はなんの躊躇もなしに喉を突こうとした。

金では買えない“愛”の存在を太一郎に教えてくれたのは万里子だ。

そして、太一郎の言葉を最後まで信じ、義理の祖母・皐月との橋渡しまでしてくれたのも彼女であった。


だが、どれほど恋い焦がれても、万里子を手に入れることはできない。

以前の彼であれば、得られぬものなら、と壊していたかもしれない。しかし、今の太一郎は万里子の信頼だけは失いたくなかった。たとえ家族としてでも。

それは太一郎の人生におけるたった一本の『蜘蛛の糸』だ。

太一郎は藤原の名前を捨て、ゼロからのスタートを決意したが……人生は彼が思うほど、甘いものではなかったのである。


~*~*~*~*~


「結局……俺は変われないのかもしれない」

「無実だと認められたわけですから。そう気にされなくてもよろしいのでは?」


宗の気遣いに、太一郎はゆっくり首を振る。


「捕まったとき、本気で違うって言えなかった。“今回は違う”ってだけだ。俺のやって来たことは……手錠を嵌められてもしょうがないことばかりなんだ」

「それでも“今回は”違います。太一郎様、変わろうとして変われないのと、変わろうとしないのは同じことではありませんよ」


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