愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
(8)眩しい少女
太一郎が『名村クリーンサービス』に移って三週間が過ぎた。

カレンダーは八月に入り、奈那子も妊娠七ヶ月半ばである。


「いってらっしゃいませ」


日に日に狭く感じる玄関口に立ち、奈那子はニッコリと微笑み太一郎を見送った。


「なあ、ちゃんと食ってるか? 電気代がもったいないとか言って、エアコン切ってるんじゃないだろうな? 金が必要なら言えよ、俺がどうにかしてくるから」


太一郎の見る限り奈那子は小食で、わずかな栄養はすべて子供にやってる気がする。

心配ではあったが、ほとんど傍にいられないのも現実だった。


「わたしより……太一郎さんのほうこそ、昼間働いて夜もなんて。お願いですから無茶をしないでください」

「俺は平気だよ。丈夫なだけが取り得なんだ。最近は見かけ倒しじゃなく、少しは筋肉もついてきたしさ……。でも、お前は子供がいるんだから、絶対に無理はするなよ」

「……はい」


『名村クリーンサービス』の給料はこれまで以下で、とてもふたりが生活していけるものではなかった。

そのため、太一郎は週四回、ビルの夜間警備員の仕事を増やしたのである。

子供が産まれる十一月までは、奈那子の所在を彼女の父・桐生代議士に知られるわけにはいかない。

加えて、この騒動に卓巳らを巻き込むわけにもいかないのだ。


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