愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
おまけに、


「それにさ……とおーっても貧乏で可哀想な警備員さんに差し入れよ! ハイ!」


と言っては弁当を作ってきてくれる。

最初、太一郎にはわけがわからなかった。

なぜなら、茜は去年の十二月、太一郎に襲われたのだ。レイプは未遂とはいえ、自分を殴り、無理矢理キスまで奪った男に近づく心理が、太一郎には不可解としか思えない。

だが、


「こないだまで、何度も夢の中に出て来て怖かったのはホントよ。でも……毎日一生懸命掃除してるし、夕食は一〇五円のコンビニおにぎり一個で我慢してるし、前みたいにお酒の匂いはしないし、ね。なんか、今の太一郎に逢って、怖い夢を見なくなったの」


茜ははにかんで頬を赤らめつつ、そんなふうに話してくれた。


――太一郎が死んでも誰も救われない。


あのとき、万里子が言った言葉の意味がようやくわかった気がする。

きっと、太一郎があのままだったら、あるいは、あのままで死んでいたら、茜は一生恐ろしい夢を見続けたのかもしれない。

そしてそれは今も……。


「……お店はさ、あんまりいないほうがいい気がして……」

「例のお袋さんの“お気に入り”か? 何かされたのか?」

「ううん。太一郎が私にしたようなことは何も」

「……いちいち引き合いに出すんじゃねぇ」

「でも、目がね。嫌な感じがするんだ……再婚とか言いだされたら、どーしよー」


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