愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
不幸中の幸いと言うべきか。ここが男子トイレであったため、他の清掃員には気づかれていなかった。

太一郎は急いで膝を折り、使い物にならなくなったトイレットペーパーを拾い集める。

張り付いた分はモップでこすり取ろう、そう思い立ち上がった直後、再び新しいトイレットペーパーが太一郎の前に転がり落ちた。


「おっと、悪いね」

「いい加減にしなさいよ! 大学生にもなってイジメみたいなこと! 汚いわよ!」


入り口から飛び込んで来たのは茜だ。小柄な身体で北脇たちに立ち向かう姿は勇ましい。

だが……。


「汚い? そりゃそうだろう。こういうやり口は全部、藤原先輩から教わったんだからな」

「……え?」


茜の視線が太一郎に向けられた。

太一郎には何も反論できない。北脇の言うとおりなのだ。逆らう人間を集団で吊るし上げ、苛め抜いて来たのは太一郎自身だった。


今、できることは、黙ってトイレットペーパーを拾うことくらい……。


無言で床に伸ばした太一郎の手に、厚底のカジュアルスニーカーが乗せられた。踵部分は指を折り兼ねないほどの硬さだ。

太一郎は咄嗟に拳を作るが……北脇は全体重をかけ踏み躙った。


「……グッ……くぅ」


奥歯を噛み締めた瞬間、太一郎の喉から呻き声が漏れる。


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