愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
「太一郎!」


茜の声を無視して太一郎はキャンパスを突き進んで行く。

懸命に追いかけるが、コンパスが違うので中々追いつけない。だが、ようやく手が届く位置まで追いつき……。


「待って! 私の話を聞いてよ!」

「触んなっ!」


茜はビクッとして立ち止まった。

すると、太一郎も足を止め、言ったのだ。


「信じてくれたこと、感謝してる。きっと将来は万里子様のようになれるさ。じゃあな」


“猛獣使い”と評された万里子の手並に憧れた。

勇気を持って正しいことをすれば必ず報われる。万里子の勇気が太一郎を変えたのだ。茜も自分の中の勇気を信じたかった。

その想いの呼び名は、まだわからなくても。


「……太一郎……」

「触るなって、汚いから」


茜は太一郎の袖を掴み、そのまま、後ろから抱きついた。 



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