愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
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「すみません。伊勢崎と言いますが、ここに……妻が運ばれて来たと」
小平市内の公立病院だった。総合受付で太一郎は自分の名前を名乗る。
――伊勢崎太一郎さんですか? 奈那子さんとおっしゃる女性が倒れて、救急車で運ばれました。
電話は、奈那子の携帯に添えられた緊急時の連絡先を見て、かけてきたものだった。
太一郎は慌てて私服に着替え、仕事を早退し、病院に駆けつける。
「奥様のお名前は」
「奈那子です。お腹に子供がいて、今、七ヶ月なんです」
「ああ……奥様はもう、産婦人科の病室に運ばれたみたいですね。南館の三階で聞いていただけますか?」
受付の女性は丁寧に南館までの行き方と、エレベーターの位置まで教えてくれた。
その場所は……太一郎には酷く居心地の悪い場所だ。大勢の妊婦が行き来し、赤ん坊の泣き声が聞こえる。
病院の消毒薬の匂いより、ほんのりと甘い……ミルクだろうか……赤ん坊の香りに眩暈を覚える。
彼にとって赤ん坊と言えば、水子の祟りくらいしか思いつかない。
一生、人の親になることなどありえない、と思ってきた。それが……ここはあまりに明るく、新しい命の光に魂まで浄化されそうだ。
「赤ちゃんに問題はありませんよ。ただ、お母さんが貧血なうえ栄養が足りてませんね。しかもこの暑さで……。奥様は元々、あまり丈夫じゃないのかしら?」
ちょうど診察してくれた産婦人科医がいて、たいしたことは無い、と説明してくれた。
だが、母体の健康回復に一週間程度の入院を勧められ、太一郎はすぐに了承したのだった。
「すみません。伊勢崎と言いますが、ここに……妻が運ばれて来たと」
小平市内の公立病院だった。総合受付で太一郎は自分の名前を名乗る。
――伊勢崎太一郎さんですか? 奈那子さんとおっしゃる女性が倒れて、救急車で運ばれました。
電話は、奈那子の携帯に添えられた緊急時の連絡先を見て、かけてきたものだった。
太一郎は慌てて私服に着替え、仕事を早退し、病院に駆けつける。
「奥様のお名前は」
「奈那子です。お腹に子供がいて、今、七ヶ月なんです」
「ああ……奥様はもう、産婦人科の病室に運ばれたみたいですね。南館の三階で聞いていただけますか?」
受付の女性は丁寧に南館までの行き方と、エレベーターの位置まで教えてくれた。
その場所は……太一郎には酷く居心地の悪い場所だ。大勢の妊婦が行き来し、赤ん坊の泣き声が聞こえる。
病院の消毒薬の匂いより、ほんのりと甘い……ミルクだろうか……赤ん坊の香りに眩暈を覚える。
彼にとって赤ん坊と言えば、水子の祟りくらいしか思いつかない。
一生、人の親になることなどありえない、と思ってきた。それが……ここはあまりに明るく、新しい命の光に魂まで浄化されそうだ。
「赤ちゃんに問題はありませんよ。ただ、お母さんが貧血なうえ栄養が足りてませんね。しかもこの暑さで……。奥様は元々、あまり丈夫じゃないのかしら?」
ちょうど診察してくれた産婦人科医がいて、たいしたことは無い、と説明してくれた。
だが、母体の健康回復に一週間程度の入院を勧められ、太一郎はすぐに了承したのだった。