愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
医師と一緒に病室まで行ったとき、
「奈那子! お前何してるんだ!」
倒れて運ばれたはずの奈那子は起き上がり、ベッドを整えている。
「太一郎さん。申し訳ありませんでした。もう、大丈夫ですから」
「大丈夫なわけがないだろう!? さっさと寝てろっ」
「でも……点滴をしていただいて、気分もよくなりましたから」
青白い顔をして“気分がよくなった”もないものだ。
だが、それを言わせているのは太一郎だった。偉そうに『助けてやる』と言いながら、最低の生活しか与えてやれない。
奈那子は、普段通っている商店街で倒れたという。懇意にしている店に、パートでも雇ってもらえないかと尋ねて回ったらしい。
そんなふたりを見かねて、女性医師が奈那子に声をかけた。
「無理は禁物ですよ。赤ちゃんに異常がなくても、お母さんが苦しいと、赤ちゃんも苦しいのよ。ご家庭ごとに事情があるのはわかりますが……今は元気な赤ちゃんを産むことを考えて。ご主人に甘えちゃいなさい、ね」
奈那子がベッドに戻ると医師は部屋を出て行った。今日は様子を見るために個室だという。明日の午前中には六人部屋に移ることになっていた。
「太一郎さん、お気持ちは嬉しいです。でも、父のせいで保険が使えないわたしは、一週間も入院したら何十万円もかかってしまいます」
「お前なぁ、いい加減にしろよ。いざとなったら、俺にだって頼る人間はいる」
「そうおっしゃって、またお仕事を増やそうとなさってるんでしょう? 一日三時間ほどしか眠られてないのに……これ以上は死んでしまいます」
「奈那子! お前何してるんだ!」
倒れて運ばれたはずの奈那子は起き上がり、ベッドを整えている。
「太一郎さん。申し訳ありませんでした。もう、大丈夫ですから」
「大丈夫なわけがないだろう!? さっさと寝てろっ」
「でも……点滴をしていただいて、気分もよくなりましたから」
青白い顔をして“気分がよくなった”もないものだ。
だが、それを言わせているのは太一郎だった。偉そうに『助けてやる』と言いながら、最低の生活しか与えてやれない。
奈那子は、普段通っている商店街で倒れたという。懇意にしている店に、パートでも雇ってもらえないかと尋ねて回ったらしい。
そんなふたりを見かねて、女性医師が奈那子に声をかけた。
「無理は禁物ですよ。赤ちゃんに異常がなくても、お母さんが苦しいと、赤ちゃんも苦しいのよ。ご家庭ごとに事情があるのはわかりますが……今は元気な赤ちゃんを産むことを考えて。ご主人に甘えちゃいなさい、ね」
奈那子がベッドに戻ると医師は部屋を出て行った。今日は様子を見るために個室だという。明日の午前中には六人部屋に移ることになっていた。
「太一郎さん、お気持ちは嬉しいです。でも、父のせいで保険が使えないわたしは、一週間も入院したら何十万円もかかってしまいます」
「お前なぁ、いい加減にしろよ。いざとなったら、俺にだって頼る人間はいる」
「そうおっしゃって、またお仕事を増やそうとなさってるんでしょう? 一日三時間ほどしか眠られてないのに……これ以上は死んでしまいます」