愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
奈那子の父・桐生は代議士だ。かなりの方面に力を持っている。奈那子がそういったものを少しでも使えば、すぐに居所は知られるだろう。

奈那子の子供は、彼の政治生命を脅かすかもしれない存在なのだ。どんな手を使っても、桐生は産まれる前に処分しようとする。あるいは産まれたあとでも……。


「お金、用立ててあげてもいいのよ。そうね、当座に三十万。それだけあれば、今回の入院費用は払えるんじゃない?」


三十万円。かつての太一郎にとって、一夜の遊びの代金だ。

それが今は――喉から手が出るほど欲しい。


「俺に……貸してくれるわけか? 担保は何もないぜ」

「やぁねぇ、あるじゃない! その立派なカ・ラ・ダ」


太一郎は郁美の貪淫(たんいん)な視線に悪寒が走った。

腰が引けそうになる太一郎を無視して、彼女は続ける。


「こないだの言葉を撤回して、ベッドの上で足を舐めてもらうわ。満足行くまで楽しませてくれたら……無利子で貸してあげる」


まさか、男である自分が金と引き替えにセックスを要求される日が来るとは、夢にも思わなかった。

札束で女の頬を叩き、言いなりにさせた罰かもしれない。そんなことを考え、太一郎は吐き気を我慢した。


「さあ、どうするの? 身重の奥さん働かせる気? 昼間の仕事は、もっと給料が減るかもねぇ~。得意なんでしょ、セックス。仕事だと思って割り切ればぁ?」


奈那子を働かせるわけにはいかない。金がなければ、彼女はすぐにも退院すると言い出すだろう。

郁美の申し出は天の助けだ。蜘蛛の糸にも等しい。

問題は……それが毒蜘蛛であることだった。


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