愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
(13)苦渋の決断
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「伊勢崎さん――お待たせ致しました。こちらがお釣になります」


トレイに千円札一枚と数枚の百円玉が乗せてあった。太一郎はそれを受け取り、財布に入れた。


「なるべく早く保険証を持って来てくださいね。再計算して、差額は返金させていただきますから」

「はい。どうもお世話になりました」


親切にそう付け足してくれる事務員に、太一郎は丁寧に会釈して支払い窓口を離れたのだった。


病室に戻ると奈那子はすでに帰り支度を済ませていた。

救急車で運ばれた当初は酷い顔色だったが、今ではすっかり血色もよくなった。この一週間で貧血の数値もだいぶ戻ったという。お腹の子供も順調で、太一郎もホッと一息だ。


(やっぱり……これでよかったんだ)


太一郎は、同じ病室の入院患者に挨拶に回っている奈那子の横顔を見ながら、この一週間に起こった事を思い出していた。


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