愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
その結果、和菓子屋『さえき』はW大学に出入り禁止となった。茜は“不純異性交遊”果ては“売春”の疑いがある、と高校にまで連絡されたという。
夏休みであるにも関わらず、茜は母親と共に高校から呼び出された。
幸い証拠は何もなかったため、処分には至らず、『必要以上に大学構内に出入りしないように』と、注意を受けたのだった。
「言ったでしょ、お母さん! たい……伊勢崎さんが悪いんじゃないってば! 私が、あの大学生たちに遊びに行こうって言われたのを断ったから。その嫌がらせなんだって」
茜は太一郎の素性を言わなかった。彼女自身が大学生から誘われ、それを断った腹いせに嘘の通報をされたのだ。そんなふうに周囲に話したらしい。
だがもちろん、母親がそれでは納得するはずもない。
「そのせいで、お得意様が減ったのよ! そもそも、あなたがこの男に適当なことを言われて、フラフラと大学に出入りするから……。しかも、うちのビルの夜間警備まで紹介してたなんて。母さん、新田さんに聞くまで何も知らなかったわ」
母親の後ろに少し困ったような表情をして和菓子職人の新田が立っていた。
人のよさそうなルックスをしている。見た目も細身で一七〇もないだろう。太一郎にはどう見ても、この男からかつての自分と同じような気配は感じられなかった。
母親もそう思っているのか、信頼と愛情の混じったまなざしで新田を見ている。
「僕は……ただ、身元が確かでない男性を茜ちゃんが紹介したって聞いて。茜ちゃんは『さえき』の大事なお嬢さんですから」
「ええ、本当に。普通に考えればわかりそうなものなのに……。頻繁に大学に行ったり、夜には警備室にまで出入りしたりしていたなんて……全然気づかなくて」
母親の仕草を見て、茜はカチンと来たようだ。
「そりゃそうよ。お母さんにとったら、家にいるより新田さんの部屋にいるほうが多いんだもの!」
夏休みであるにも関わらず、茜は母親と共に高校から呼び出された。
幸い証拠は何もなかったため、処分には至らず、『必要以上に大学構内に出入りしないように』と、注意を受けたのだった。
「言ったでしょ、お母さん! たい……伊勢崎さんが悪いんじゃないってば! 私が、あの大学生たちに遊びに行こうって言われたのを断ったから。その嫌がらせなんだって」
茜は太一郎の素性を言わなかった。彼女自身が大学生から誘われ、それを断った腹いせに嘘の通報をされたのだ。そんなふうに周囲に話したらしい。
だがもちろん、母親がそれでは納得するはずもない。
「そのせいで、お得意様が減ったのよ! そもそも、あなたがこの男に適当なことを言われて、フラフラと大学に出入りするから……。しかも、うちのビルの夜間警備まで紹介してたなんて。母さん、新田さんに聞くまで何も知らなかったわ」
母親の後ろに少し困ったような表情をして和菓子職人の新田が立っていた。
人のよさそうなルックスをしている。見た目も細身で一七〇もないだろう。太一郎にはどう見ても、この男からかつての自分と同じような気配は感じられなかった。
母親もそう思っているのか、信頼と愛情の混じったまなざしで新田を見ている。
「僕は……ただ、身元が確かでない男性を茜ちゃんが紹介したって聞いて。茜ちゃんは『さえき』の大事なお嬢さんですから」
「ええ、本当に。普通に考えればわかりそうなものなのに……。頻繁に大学に行ったり、夜には警備室にまで出入りしたりしていたなんて……全然気づかなくて」
母親の仕草を見て、茜はカチンと来たようだ。
「そりゃそうよ。お母さんにとったら、家にいるより新田さんの部屋にいるほうが多いんだもの!」