愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
「た、たいちろうさんっ! どうしたの? 何してるの?」


驚いた様子で万里子も座り込み、太一郎を立たそうとする。


「頼む。何も聞かず、三十……いや、二十万貸して欲しい。――頼みます」


万里子の息を飲む音が聞こえた。


「太一郎さん。困っていることがあるなら、卓巳さんに……」

「卓巳には……知られたくないんだ。というか、奴は知らないほうがいい。詳しくは言えないけど……変なことに使う金じゃない。明日、退院で金がいるんだ。必ず、どんなことをしてでも返す! だから」

「わたしが銀行からお金を引き出せば、卓巳さんに必ず伝わるわ。わたし……彼に聞かれたら、正直に答えます。だから、内緒でお金は貸せません」


もっともな話だ。

卓巳への口添えであるなら、万里子は喜んで引き受けてくれるだろう。だが、卓巳に嘘をつけと言われて、承知するはずがない。

通り行く人の視線を感じ、太一郎は急いで立ち上がった。


「悪ぃな。忘れてくれ。今日のことは……卓巳に聞かれるまで黙っておいてくれたら」


ボソボソと呟く太一郎の手を取り、万里子はバッグから慌てて取り出した白い紙を握らせる。


「すぐに連絡しておくから……訪ねてください。必ず、力になってくれるから」


それは一枚の名刺で――

“千早物産株式会社 代表取締役社長 千早隆太郎”と書かれてあった。  


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